私たち昭和世代にとって、街の楽器店に並んだ新品のギターや、友人から譲り受けたGibsonやMartin楽器に触れた瞬間の高揚感。
そして、フォークソングやブルーグラスの音色に背中を押され仲間と歌い演奏した日々がありました。
約50年が経過した現在、そのとき手にした楽器たちは今なお輝きを放っています。
昨今の中国製のバンジョー、韓国製のギターも試しに購入しましたが、消耗品で無い楽器では作りが全然違うように感じました。
※以下は私の所有・試奏経験に基づく個人的見解です。当時期・個体差により評価は変わります。
10年ほど前の中国製バンジョーのWood Rimが丸太を縦にぶち抜いて作られていた。
韓国製ギターは厚い塗装でごまかしているが、木材自体が素人でわかるくらい悪くインレイがほぼシールだった。
彼らは形の真似はある程度出来るが、当時の日本製の楽器は
「楽器の背景にある洋楽やコピー元の海外楽器にリスペクトがあり、その文化も踏襲しようとしていた」ように思います。
ここでは現在所有する Tokai Banjo T-1200R、そして Morrisギター(W-100D・W-40) を通じて、日本製の昭和楽器の魅力を少し掘り下げてみます。
Tokai T-1200R|1981年製・国産5弦バンジョーの最高峰

Tokai楽器といえば、フォークソングブームの当時ギターではMartin と提携した「Cat’s Eye」が知られ、エレキ部門でも「Love Rock」「Springy Sound」などの名器で知られるメーカーですが、実は1970年代後半〜80年代初頭にはバンジョーやフラットマンドリン等のブルーグラス楽器も手掛けていました。
その中で5弦バンジョーの最高峰に位置するのが T-1200R です。戦前のGibson Mastertone Banjoを徹底研究して、日本人の職人技で丁寧に作られた楽器です。
型番の「1200」は当時の定価(12万円クラス)を示し、当時としては相当高価な部類でした。
またTOKAI 楽器はGoldStar Banjoと名を変えて海外へも輸出していました(2ピースフランジ)。
※1980年代後半にNEW Gibson になるまで、5弦バンジョーは当時の国産Kasuga、bluebell等も2ピースフランジを採用していましたが、TOKAIは1200R、850Rシリーズから戦前のGibson Mastertone Banjoに拘った1ピースフランジを採用していました。現在はそのメーカーも1ピースフランジになっています。
(R = Resonator)で、野外でも音の反響が大きいブルーグラス演奏に特化した設計になっています。
- 精巧なトーンリング
- 繊細なインレイワーク
- 戦前のGibson Mastertoneを意識した設計
これらの特徴は、当時の国産クラフトマンシップの結晶といえます。たまに中古市場で見かけますがリースのインレイは珍しいように思います。海外でも戦前のGibsonファン等から「Japanese Banjo」として注目される存在でした。
Morris W-100D|1970年代後半 堀内孝雄モデル 「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」堀内孝雄モデル

1970年代後半、日本中を席巻したフォークグループ「アリス」。
そのメンバーである堀内孝雄(ベーヤン)モデルとして販売していたMorris W-100D です。
多分ですが本人はハカランダ単板のW-300D?を愛用していたような…。
他にもYAMAHAから「わかれうた」当時の中島みゆきモデルのN-1000とかもね。
このギターは、中島さんから福山雅治に譲られた(N-3000?)という記事もありました。
定価10万円クラスと、当時の平均月収に匹敵する高級モデル。ドレッドノートサイズの堂々としたボディに、豪華なインレイが施されステージ映えする一本です。
インレイ好きなので手に入れました。
「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」TVコマーシャルと共にモーリスギターは多くの若者が手にして、様々なミューシャンの楽譜をコピーして演奏していた。
※1970年代は、大阪のABCラジオ「ヤングリクエスト」でキダタロー氏が担当する「ミキサー完備スタジオ貸します」というコーナーに、多くのアマチュアバンド(高校生~職場の仲間)が出ていて、下手くそだとキダタロー氏から辛辣な批評を受けていたが、人気番組でした。
ヤマハを筆頭にアコースティクギターは多くのメーカーが存在して、サイドやバックに「ハカランダ」を使ったギターが割と多かったですが、特にYAMAKIのギター「ハカランダ」の部分をカツオ節を販売していた「ヤマキの花カツオ」に例えて「花カツオ」と言ってました。
このギターは現在でも割とオークション等で見かけますが、コレクターズアイテムとして当時よりも高値で取引されていることもあります。
Morris W-40|学生たちが手にした1本

一方、Morris W-40 はより身近な存在でした。定価4万円クラスという設定は、当時の学生や若者にとって「ちょっとバイトを頑張れば手に入る」現実的な価格帯。
しかし、その音色や作りは価格以上の価値を持ち、多くのフォーク少年・少女の「最初の本格ギター」として愛されました。ストロークに強く、弾き語りに最適。
仲間と歌い合う場面でこの価格帯ギターで活躍した人も多いはずです。
※もっと安いものは、当時の漫画週刊誌(サンデー、マガジン、キング)等の裏表紙に広告に出ていたTOMSON ギターとか、バンジョーではピアレスとかが安価で売っていた。体を鍛えるブルーワーカーと共に…
W-40は高校生の時に大阪天王寺公園近くのトミヤ楽器(2020年閉店)さんで買いました。
店で迷っていると、店長?さんが「これ一クラス上のギターで、うちの店で試奏したらかなりエエ音してるし徳やで」という一言で決めたなぁ。
何でも2割引きと言うのが売りで32,000円、KASUGAのバンジョー2台(400R、800R)もここで買いました。狭い店内に楽器がびっしり。
他に昭和町の国際楽器とか、京都の十字屋楽器とか、京阪モールの中とか、普通の商店街にも楽器屋さんが多くありました。
楽器は良く「当たりはずれ」があると言われますが、ビンテージとは言い難いですが、このW-40はトミヤ楽器の店長が言った通り50年経過した今も白濁やネック反りも無く、相変わらず大きな音で鳴ってくれています。
日本製のギターの一部は「Japanese Vintage Acoustic」として注目されており、当時を知る人だけでなく、若い世代のコレクターにも人気が高まっています。
中古品はあくまで「新品ではないもの」ですが、ビンテージは「時代背景と文化を宿した特別な存在」。
- 昭和当時に使われた良質な木材(現在では入手困難なハカランダなど)
- 職人の手仕事による丁寧な製造(ビルダーのサイン入り)
- 当時の音楽シーンとの深い結びつき
これらの要素が合わさり、状態の良い昭和の楽器は今でも輝きを放ち、むしろ価値を増しているものもあります。