日本の左派は「地政学のアップデート」に失敗している
日本でも左派と言われる人々(政党でいえば、共産党、社民党、れいわ新選組、立憲民主党の一部、朝日新聞・毎日新聞/TBS・テレビ朝日等)は、世界情勢を十分に見ないまま、国内の政権与党や大手企業、旧財閥系、電力などの基幹産業、そして安全保障・経済政策に対して強いブレーキをかけています。
これは「善悪」の問題というより、思考の前提・世界観が古いまま固定されており、令和の現実とズレていることが原因です。
また、日本の左派は「国家・同盟・軍事・大企業」への不信感が非常に強く、昭和〜冷戦時代のイデオロギーで時計が止まったままのため、令和の世界情勢と噛み合わなくなっています。
「冷戦で時計が止まった」日本左派の世界観
日本の左派がもともと育ってきた価値観は、おおざっぱに言えば次のようなものです。
- 米国=帝国主義で悪い
- 大企業=労働者を搾取する敵
- 軍事力=戦争を呼び込むもの
- 国防強化=戦争準備だから反対
- 自衛隊・基地=基本的に違憲・反対対象
これは1970年代の「反米・反基地・反資本主義」運動の延長線にある世界観です。
しかし現実の2020年代は、次のような状況です。
- 中国の軍拡と海洋進出
- 北朝鮮のミサイル発射
- ロシアのウクライナへの軍事侵攻
- 台湾有事のリスク
- 中東の不安定化
- 経済制裁・供給網を使った覇権争い
つまり、「軍事・経済・外交・技術」がフルセットで動く世界になっているにもかかわらず、日本の左派は
- 平和とは軍縮である
- 戦争は話し合いで止められる
といった、冷戦後の夢の延長線上にとどまっています。
日本型左派の典型パターン
1 安全保障政策でのパターン
- 防衛費増額・自衛隊装備の近代化に一貫して反対する
- 敵基地攻撃能力の保有など、新たな防衛概念には強く反発する
- 日米同盟の強化よりも、憲法9条の絶対信者で「話し合い」を優先する
- 基地強化や自衛隊の訓練を「戦争準備」とみなして反対運動を行う
2 外交姿勢でのパターン
- アメリカへの警戒・批判は非常に強い
- 中国や北朝鮮、ロシアなど権威主義国家への批判は相対的に弱い
- 「国家」よりも「個人の権利」や「国際社会の理想」を優先する
- 「日本人」という集団より、地球市民・人類全体といった抽象概念を重視する傾向
3 経済・産業政策でのパターン
- 大企業・電力・重工、基幹産業を「格差の象徴」「権力構造」として敵視しがち
- 大企業支援=利益供与・癒着、と決めつける傾向がある
- 半導体・エネルギー・インフラなどが「安全保障そのもの」である視点が弱い
- 労働保護・規制強化を優先する一方で、産業競争力・国際競争を軽視しがち
4 全体の特徴
- 国家より市民・理想・人権を上位に置く
- 軍事力・供給網・エネルギーといった現実のパワーを過小評価する
- 民主主義国家に厳しく、権威主義国家には甘くなりやすい
- 結果として、「国益」よりも「イデオロギー」が優先されることが多い
日本保守の典型パターンとの対比
対照として、日本の保守の行動パターンを簡潔に整理しておきます。
1 安全保障政策でのパターン
- 日米同盟を安全保障の軸として位置づける
- 台湾有事・シーレーン・南西諸島防衛など、地政学的リスクを前提に議論する
- 自衛隊の装備更新・防衛費の増額を「抑止力強化」として捉える
2 外交姿勢でのパターン
- 民主主義陣営(米・英・豪・印など)との連携を重視する
- 中国・北朝鮮・ロシアの軍事的脅威をかなり強く意識している
- 価値観外交(民主主義 vs 権威主義)の枠組みも取り込もうとする
3 経済・産業政策でのパターン
- 自動車・半導体・電力・造船などを「国家戦略資産」として保護・支援する
- 税制・補助金・規制緩和を使いながら産業競争力を維持しようとする
- 経済安保(サプライチェーン・技術覇権)と産業政策を一体で設計する
4 全体の特徴
- 国家・国益を中心に考える
- 地政学・軍事・供給網を総合的に見る発想を持つ
- インド太平洋戦略など、米欧諸国が共有する枠組みに乗っていく
歴史要因:戦後〜令和までの流れ
1 戦後直後〜1970年代
- GHQ占領下で「軍国主義の否定」「国家観の弱体化」が教育方針に採用
- 日教組主導で反国家・反軍事思想が広がる
- 安保闘争・ベトナム反戦運動で「反米=正義」という構図が固定
2 革命ロマンと社会主義幻想
- 中国革命やキューバ革命が“美しい革命”として祭り上げられる
- チェ・ゲバラが“反資本・反米の英雄”として神格化される
- 北朝鮮は「地上の楽園」と報じられ、批判が封じられる
3 被爆国ナラティブと靖国への敵意
- 本来「核兵器を使ってはならない」が主旨のはずが、軍事力全否定・国防否定にまで拡大解釈される
- 靖国神社は“軍国主義の象徴”として扱われ、政治的攻撃の対象になる
4 冷戦後:世界の左派は現実路線へ、日本だけ取り残される
- 欧州左派は国防・同盟・産業政策を現実的に見直す
- 日本左派は昭和の「反米・反戦・反資本」思想のまま
- その結果、令和の地政学(米中対立・台湾有事・経済安保)と整合しない立場に固定される
なぜ日本左派は「政権・大企業・基幹産業の足を引っぱる」のか
ここまでの整理から見えてくるのは、次の一点です。
日本の左派は、経済に疎く「地政学と経済安全保障」のアップデートに失敗した結果、令和の世界情勢と噛み合わないポジションに取り残されている。
そのため、次のような構図が生まれます。
結果として、「国益を毀損する方向」に働きやすい構造ができてしまっているのです。
名前は「左派」でも、中身は世界標準とまったく違う
同じ「左派」というラベルでも、日本と欧米では中身がかなり違います。
特に、欧州の社会民主主義政党や英労働党などは、「国防・同盟・産業戦略」を現実的に認めたうえで福祉・労働・平等を追求するスタイルへとシフトしています。
●比較表
| 項目 | 日本左派 (共産・社民・れいわ・立憲/自民内左派) | 欧米左派 (北欧社民・ドイツSPD・英労働党など) |
|---|---|---|
| 安全保障 | 反軍事・反基地・軍拡反対が基本。 自衛隊強化や基地機能向上に一貫して反対。 | 国防は必要と認め、NATOを容認。 ロシアや中国の軍事的脅威を前提に軍備増強も議論。 |
| 世界観 | 反米・反資本主義が強く、米国=悪の帝国という発想が残る。 | 米国を批判しつつも、民主主義陣営の一員として協力せざるを得ないと理解。 |
| 対中国姿勢 | 人権・軍拡への批判は相対的に弱く「対話」「迎合」を強調しがち。 | 新疆・香港・台湾問題を含め、中国の人権侵害・軍事膨張に強い懸念を示す。 |
| 対米姿勢 | 基地反対・日米安保批判が中心。 米軍・在日米軍を基本的に否定的に見る。 | 米国の問題点は批判するが、安全保障上の同盟は維持する現実路線。 |
| 経済観 | 大企業=悪、利益=搾取という構図が根強い。 「反大企業」が政治メッセージの中心になりやすい。 | 大企業とも交渉しつつ、税制・規制で「社会的責任」を求める。 経済成長と再分配の両立を目指す。 |
| 産業政策 | 規制・労働保護を優先し、産業競争力・技術覇権の視点が弱い。 安全保障産業は軍拡と解釈 | 半導体・エネルギー・インフラを国家戦略として位置づけ、産業政策と福祉をセットで考える。 |
| エネルギー政策 | 「反原発」が中心で、エネルギー安全保障の議論に疎い。 | 原発・再エネ・天然ガスなどを組み合わせ、供給網全体の安定を重視する。 |
| 地政学理解 | 軍事・外交・経済をバラバラに議論しがちで、供給網や制裁の意味を軽視。 | 経済制裁・供給網・軍事同盟が連動することを前提に政策を設計。 |
| 国益概念 | 国家という枠組みそのものに抵抗感が強く、国益という言葉を嫌う傾向。 | 「国益+福祉+人権」のバランスを取ろうとする現実的な発想。 |
| 支持層 | 大都市の非製造業層・メディア・学者・理想主義的な層が中心。 実業・製造・インフラ現場とは距離がある。 | 労働者・中間層・公共セクター職員など、現場に近い層も多い。 |
| 思想の年代 | 1970年代の左翼運動・学生運動の延長線上にある発想が多い。 | 冷戦後〜2000年代以降に、「国家と民主主義を守る現実路線」へ転換してきた。 |
同じ「左派」というラベルが使われていても、
- 欧米の左派は「国家・同盟・産業・福祉」をトータルで考える現実主義にシフトした
- 日本の左派は「反米・反資本主義・反軍事」の時代から抜け出せていない
という、決定的な違いがあります。
その結果、
日本の安全保障と経済を真剣に考えるなら、ラベルとしての「右・左」よりも、次の3点が重要になります。
ラベルではなく「現実との接続具合」を冷静に見ることが、日本の政治と安全保障を理解するうえでの第一歩になります。
